タダ働きさせられそうになった英国のあるミュージシャンがテレビ局に宛てた1通のメール

私の親しい人々からも、ミュージシャンのギャラにまつわるトラブルは度々耳にします。多いのが、約束していたギャラを最後の最後で値切られたとか、「知名度が上がるから・修行のつもりで」ノーギャラで演奏してくれないか、といった打診。まぁどう考えても恥知らずな話なのですが、ライブ演奏ではなく、自分の録音音源をテレビ番組で使いたい、でも予算がないから無料で、とテレビ局に打診された英国のWhitey(NJ White)というミュージシャンが、ブチ切れた返信をしたらしく、2013年頃にかなり話題なったようです。このサイトでたまたま目にしたので、そのメールの抄訳を以下に掲載します。

こんにちはゾエ

まず最初に、レーベルはないとお伝えします。自分の音源を完全に所有しているのは私です。そのためあなたが誰にメールを書いたのかよくわかりません。

次に、あなたの中身のないギャグ、「残念ながら音楽に充当する予算がないのです」という常套句には死ぬほどうんざりしているとお伝えします。不変の宇宙の法則が、「音楽には金を払えない」という悲しくも変更不能な財政的宣告をあなたに告げてきたかのように、あなたはそう書きました。しかし、予算を設定したのはあなたの会社なのです。音楽に予算はかけないと決定したのはあなたたちなのです。こういう物乞いみたいな手紙を私は毎週のように受け取ります。人気急上昇中の、潤沢な予算があるメディア産業から。

なぜこういうことが起きてしまうのか。私達はお互いが何者なのかを見てみましょうか。

私は自分の音楽によって生計を立てている、プロの音楽家です。私は半生をかけてこのスキルを獲得してきました。険しい道のりを前進してきました。その結果、あなたのような見知らぬ人が私にメールをよこすまでになりました。この音楽は、私が懸命に築いてきた財産です。私はこれまで、規模の大きいショーやブランド、ゲームやテレビ番組制作会社と自分の音楽をライセンス契約してきました。「ブレイキング・バッド」や「ザ・ソプラノズ」、コカ・コーラやVISAカード、HBOからロックスター・ゲームスまで。

胸に手を当てて聞いてみてください。あなたはアートさんやディレクターさんに、そういう経歴の持ち主にタダ働きさせるような、ふざけた提案をするのでしょうか?勿論しないでしょう。何故ならあなたが属している産業は、こうした人々の仕事を尊重し、それに対して対価を支払ってきた前例があるからです。

それともあなたは誰か知らない人の家に入って、彼等のどんぶりから勝手に食べて、微笑みを浮かべながら帰り際に「本当にすみません、食べ物のための予算はないんですよ」とでも言うのでしょうか?勿論あなたはそんなことしないでしょう。何故なら私達の文化では、それは「窃盗」と呼ばれている行為だからです。

それでもミュージシャンたちに対する文化的な軽蔑は、あなたの職業において蔓延しています。そのためあなたたちは可能な時はいつでも音楽をかっぱらおうとするのです。あなたは撮影に関係する全ての人々に賃金を支払いますよね。疑いようもなく。ケータリングの人、照明の人は勿論、セットにモップがけする人や撮影後にトイレ掃除する人にまで。ミュージシャンは?タダでいいんじゃない、とあなたは言うのですか。

さて今度はあなたのことを見てみましょうか。あなたのウェブサイトをちらっと見てみました。国際的な配信もする有名なバラエティ番組をたくさん抱えていますね。あなたたちは成功を収めた、支払い能力のある、世界的な評価を得ている会社でヒット番組をたくさん持っています。ウェスト・ロンドンにオフィスのあるチャンネル・フォーと緊密に連携して様々なテレビ番組を制作し、数々の賞を受賞してきました。あなたたちには金がある。ない、というのは私に対する侮辱です。

それでもあなたは私にこんな貧乏臭い依頼をしてきます。お前の財産をよこせ。無料で。お前の持ち物をくれ。俺達はそれが欲しいんだ、と。

私の回答は、断固とした、永遠のNOです。

私はこれからこのメールを自分のウェブサイトに掲載します。主要な音楽サイトやブログに転送します。彼等にこれを拡散するよう依頼します。ミュージシャンをこのように濫用する産業について人々が議論しはじめるのを、私は見てみたい。あなたのメールは行き過ぎでした。もうたくさんです。私はあなた(たち)に死ぬほどうんざりしています。

NJ White

あなたの◯◯を無料で使わせてください、とか、無料で◯◯をしてください、と依頼してくる人は世界中にいるようですね。写真産業に詳しい友達によると、写真業界では特にこれは多いようです。「タダだけど知名度を上げる良いチャンスだよ」とか「まずタダでやって印象を残せば会社と契約できるようになる」とか「やりたくないなら別にいいですよ、他の誰かに頼むので」という感じの口実が使われることが多いそうです。

ホント失礼な話ですよね。日本では、音源について無料で使わせてほしいという話でトラブルになった例は個人的にはあまり聞かないのですが、ライブ演奏についてのトラブルは本当に多いですね。実は予算が足りませんでしたスミマセン、と言われることが多いようですが、最終的にそのショーなりイベントのオーガナイザーは損をしていません。

このことについて色々調べてみると、「知名度が上がるから(=露出度, exposure, が上がるから)」という理由で無料(free)での演奏を要求されたら、次のように返したらどうか、という声を欧米のインターネットで多数見かけました。

  • 無料で演奏してやってもいいけど聴きにきているお客さんには無料で飲食させるように。そうすればあんたの店の知名度が上がるぞ
  • 俺の家でホームパーティーをするから、お前の店が無料で俺の家にケータリングしたらどうだ。お前の店の知名度が上がるぞ
  • ジョン・コルトレーンの「フリー」時代の曲を延々と演奏してやればいい

洋の東西を問わず、ミュージシャンに対して、無形の音楽に対して別に対価は払わなくても良いだろう、という考えが多くの人々の意識の底にあるのではないか、と思いました。

タダ働きされそうになった英国のあるミュージシャンがテレビ局に宛てた1通のメール

フルタイムのミュージシャンでなくとも、自分の演奏活動・創作によって相手が経済的な利益を得る場合、相手が足元を見て値切ってくるようなことがあったら怯む必要はないのではないでしょうか。上のメールには良い感じの「返し」が詰まっています(上のメールは最終的にブチ切れて終わっていますけれども、実際は自分にとって有利な落とし所を見つけるつもりで交渉に臨んだほうが良いのかもしれません…)。

この問題を考えているうちに、社会における音楽家・芸能に関わる人間の位置付けを深く考えることになりました。それはかなり複雑な問題になりそうなので後日稿を改めて書いてみたいと思います。