米国の怒れるユーチューバーたち:ユニバーサル・ミュージック・グループがオンライン音楽教育を滅ぼす?

ジャズの魅力を解説したり、音楽理論を解説したり、批評的なパロディ作品を発表しているアメリカのユーチューバーたちが最近、ユニバーサル・ミュージック・グループに対して怒声を上げています。発端は人気ユーチューバー・Rick Beato氏の「なぜレコード・レーベルはいまだにダメなのか」という動画(2017/10/19公開)。その内容をまとめてみました。

  • ジャズが嫌いだという人のために、ジャズの魅力を伝える動画をつくった
  • ジャズは言語だから、ジャズを鑑賞するにはその語彙や文法を理解する必要がある
  • その例を示すために、9月16日に1時間4分のライブストリーミングを行った
  • そのうち3つの楽曲から合計4分間、音源を流した
  • 1983年発売のキース・ジャレットの”Standards vol.1″収録の”All The Things You Are”(7分47秒)のうち、曲の中間部分の1分21秒間を流した
  • それはECMレーベル管理のレコードで、現在はほとんど売れていないだろう
  • その翌日、ECMの本拠地と思われるドイツとオーストリアで動画がブロックされた
  • その数週間後の今日、その動画は完全にYouTubeから削除された
  • 理由は著作権侵害
  • その動画ではマッコイ・タイナーの”The Real McCoy”(1967)収録の”Passion Dance”(8分40秒)の中からも1分27秒間を流した
  • 曲の中間部のピアノとサックスのソロ部分を紹介した
  • 1958年リリースの「ジョン・コルトレーン作の”Oleo”」(6分18秒)からも1分間流した
  • しかしその音源はマイルスの”Relaxin'”収録のものでコルトレーンの曲でもない
  • YouTubeのContent IDアルゴリズムはそもそもずさんで誤判定も多いのだ
  • キースの音源はECM、マッコイの音源はブルーノート、マイルスの音源はコロンビアが管理しているが、それらのレーベルはユニバーサル・ミュージック・グループの傘下である
  • 人々にこれらの音源を買いなさいと言っている私の動画をなぜユニバーサル・ミュージック・グループは削除するのか

アメリカには「フェアユース」(Wikipedia)という著作権絡みの観念があります。教育や批評目的だったりパロディ作品の場合でなおかつ非営利性が強く、オリジナル作品の市場での価値を毀損しない限り著作権が制限されるという「抗弁事由」です。

削除されたBeato氏の動画にて、氏が言うように曲の8分の1〜6分の1を曲の途中から、しかも音楽語法の解説を目的として流していたのなら、それは明らかに教育目的であり、氏がその動画から収益を得ていてもオリジナル作品の流通を妨げるどころか、むしろ促進させていたはずで、裁判で争えば「フェアユース」と判断されるだろう、と多くの人がコメントを寄せています(氏のその解説動画がきっかけとなり実際にマッコイ・タイナーのビニールレコードを買いに行った、というユーザーがコメントを寄せていたりもします)。

こういう「著作権侵害」は、YouTubeが権利者に対して提供している”Content ID”というアルゴリズムによって機械的に判定されており、権利者はそのアルゴリズムによって自身が管理している音源の著作権を侵害されたという通知を受け取ると、その動画を削除させたり、そこに広告を挿入し、その収益を自身のものとすることができるようです。

Content IDアルゴリズムによって「黒判定」された動画がどういう場合に削除され、どういう場合に権利者によるマネタイズの対象とされつつも残されるのかは不明ですが、Rick Beato氏の場合、ジャズの魅力を伝えるべく制作した1時間4分のストリーミング録画をバッサリ削除されてしまったわけで、なんとも気の毒な話です。

ジャズの魅力を伝えるそのニッチな動画は、そもそもスズメの涙ほどの収益しか生まないらしく、Beato氏としてはユニバーサル・ミュージック・グループにマネタイズさせてでもせめて動画を残しておきたかったことでしょう。

ユニバーサル・ミュージック・グループをはじめとする正当な権利者が自社管理の著作物を守っていくのは当然としても、同社のこの動きは損になっているようにしか見えず、なんとももったいない誰得な事態になっている、と多くのアメリカ人は感じているようです。

ジャズの古典的な音源は大部分がユニバーサルによって管理されているらしく、オンラインで音楽教育活動を行っている他の有名ユーチューバーのAdam Neely氏も、曲を解説する時にオリジナル音源の再生速度やピッチを変えてContent IDアルゴリズムと戦うしかない、と下の動画で憤っています。

Neely氏が動画で語っているのは、絵画の名作について語る時にその絵画を見られないとしたらおかしいだろう、ということです。音楽の名作を観察していこう、という時、その音源を一部でも使うことが許されなくなれば、オンラインでの音楽教育活動は難しくなる。

すると彼らの生活は成り立たないし、ジャズに興味を持つ人も増えないし、ユニバーサルの売り上げも伸びないし…いいことひとつもないですよね。何やってんだか。

米国の怒れるユーチューバーたち:ユニバーサル・ミュージック・グループがオンライン音楽教育を滅ぼす?
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