エレクトリック・ギターのゆるやかな死:ギブソンとフェンダーの経営戦略から見えてくる風景

2か月ほど前、エリック・クラプトンが「ギターはもう終わったのかもしれないな(“Maybe the guitar is over.”)」と語ったことが大きく話題になりました。ワシントン・ポストの「エレクトリック・ギターのゆるやかな死(The slow death of the electric guitar)」という記事を受けての発言です。

エレクトリック・ギター市場は年々縮小傾向にあり、ギブソンとフェンダーは巨額の負債を抱えている。業界3位のPRSも人員削減と安価なラインナップの拡充を余儀なくされた。北米の有名な小売店Guitar Centerも赤字経営。

かつては多くの若者がクラプトンやジェフ・ベック、ジミヘンやサンタナ、ジミー・ペイジに憧れてギターを買った。しかしミレニアル世代と呼ばれる1980年〜2000年台初頭に生まれた若者たちは、あまりギターを買わないらしい。

なぜか。1つは、ギターヒーローが現れなくなったから。もう1つはエレクトロニクスの進化。1979年にはTascam Portastudio 144が、1981年にはOberheim DMXドラムマシンが登場。宅録とヒップホップ時代の幕が開き、若者はヒーローもいなければ習得も難しいギターを買うことがなくなった。という事情らしい。

しかもこんなふうに縮小を続ける市場なのに、メーカーやショップは増え続け、縮んでいくパイを奪い合っているため各社の売り上げは落ちる一方。加えて経済不況。安い製品でないと売れない。単価も下がる。

何年か前に秋葉原のヨドバシカメラで「あれっ」と思ったことがあります。ヘッドフォンなどを売っているフロアに、TEAC, Philips, ONKYO, Pioneerのロゴが描かれたパネルがあり、そこには「Gibson Brand」という文字が添えられていたからです。えっ、あのギブソン? ギブソンと音響機器メーカーが何故? と不思議に思ったのでした。

また、ちょうどその頃だったと思うのですが、ギブソンは”G FORCE”というロボットチューナーを全ギターに搭載して話題になりました。ギブソンは何かおかしくなっている。どうしたんだろう。と思いました(この”G FORCE”は全世界的に大不評だったらしく、その後は強制的に搭載されることはなくなりました)。

しかし上述のワシントン・ポストの記事を読んではじめて、ギブソンがオーディオ機器メーカーを買収したことも、ロボットチューナーというエレクトロニック・デバイスをギターに強制搭載したことも、ビジネス的視点では同社にとって一貫性のある動きだったらしいことに気付きました。ギブソンは一言で言うとエレクトロニクス時代に対応しようとしたんですね。

ただ、それはちょっとうまくいっていないように見えます。

一方フェンダーはどのようにこの苦境を乗り切ろうとしているか。キーワードは「教育」。月額制のオンライン・ギターレッスンサイトを立ち上げ、ギターを買った人達がすぐに投げ出さないよう育てるという方向に舵を切りました。当然そこでフェンダーのファンを増やし囲い込み、顧客のライフタイムバリューを上げていくという戦略です。素人目にはギブソンよりも堅実な経営判断に見えます。

楽器メーカーだけでなく楽器店も大変だと思います。日本でも最近はギターに限らずモノが売れないと言われている。株価は上がっていても完全な不況で、人々の可処分所得が少ない。若者はお金を持っていない。30万円のレスポールなんかとても買えない。売れるのはたぶん2万円のエピフォン。ギターヒーローは勿論いない。少子化。明るい要素が少しもない。

ある程度お金を持っているシニア世代が少しづつ消えていったら、楽器を売るだけのお店もどんどん消えていくでしょう。超ハイエンドな専門店なら生き残れるかもしれない。

私は島村楽器というチェーン店がこの状況をよく把握していると思いました。何故かというと、ショッピングモールとか駅ビルみたいなところに入っている島村は大体音楽教室がセットになっている。地方都市にもある。なるほどこうやってスクールを併設しておけばお店で楽器も買ってもらえるし、教育方面でも収益を上げられる。フェンダーと似た方向性。

他にも大手の楽器店で音楽教室をやっているところはありますが、エレキギターを売っているようなチェーン店で戦略的に音楽教室も経営しているお店というと島村楽器をまず思い出します(島村さんの回し者ではないので念のため)。クロサワ楽器もちょっとやっているかな。日本の楽器店は今後どうなっていくのでしょうか。

売れるギターについては恐らく二極化が進むような気がします。2万円のエピフォンか60万円の高級手工ギター。音楽教室やスクールはどうなるんだろう。メーザーハウスが2020年3月で閉校すると最近話題にもなりました。ライトミュージック業界全体が10年後、20年後にどんな姿をしているのか、興味深いものがあります。

下のエピフォン・レスポールはこの記事を書いている時点で13,900円です。こんな値段のギターは私が中高生の頃はありませんでした。「エレクトリック・ギターのゆるやかな死」というワシントン・ポストの記事を象徴するかのような1本に私の目には見えています。安いのは大変ありがたいとしても、業界の未来が見えない1本です。

それとも今後またギター・ヒーローが現れたりするのでしょうか。ギター人口が減少しているとはいえ、北米ではここ数年テイラー・スウィフトの影響でギターをはじめた女子が増えた、という話もあり、彼女は現代のヴァン・ヘイレンだ、などと言われているそうです。

この記事には続きがあります:

エレキギターが売れなくなった本当の理由は何なのか
先日、エレクトリック・ギターのゆるやかな死:ギブソンとフェンダーの経営戦略から見えてくる風景という記事を書いたのですが、それを書くきっかけに...
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