究極の謎? ダブル・ハーモニック・スケールの神秘と由来に迫る

ダブル・ハーモニック・スケールと呼ばれるものがあります。正式名称は「ダブル・ハーモニック・メジャー・スケール」(Double harmonic major scale)らしいですが、「ダブル・ハーモニック・マイナー」と呼ぶ人もいるようです。その理由は、このスケールを眺めるとなんとなくわかります。

究極の謎? ダブル・ハーモニック・スケールの神秘と由来に迫る

このスケールは、ハーモニック・マイナー(またはハーモニック・メジャー)を「ルートからオクターブ上まで弾いた時の最後の4音」の構造をそのまま前半にも持ってきたような造りになっています。だから「ダブル・ハーモニック・マイナー」と呼ばれることもあるのだと思います。しかし改めて眺めると、M3の音が入っているので「ダブル・ハーモニック・メジャー」のほうがやはり良さそうです。

まずはしばらく弾いてサウンドを身体で感じてみます。いろんな弾き方ができそうですが、ボックスポジションの例を2つ。弾きにくさはどちらも大差ないです(笑)。かなりエキゾチックなサウンドです。短三度(増二度)が2回あるのと、転回形には半音が3つ連続する箇所が出てきます。

究極の謎? ダブル・ハーモニック・スケールの神秘と由来に迫る

このスケールには、ビザンチン・スケール、アラビック・スケール、ジプシー・メジャー・スケールという別名もあるようです。下線部は後の考察と関連があるので是非ご注目下さい。ハーモニック・マイナーの4番目の音を半音上げたり(=フリジアン・ドミナントの7度を半音上げる)、ハーモニック・メジャーの2度を半音下げることでも得られます。

  • Harmonic minor #4
  • Phrygian dominant #7
  • Harmonic major b2

以下、参考記事。

ハーモニック・メジャーという謎スケールについて
時々、ハーモニック・メジャー・スケールという用語に遭遇します。真面目に考えたことも使ったこともないので、この記事で考察してみることにしました...

転回系は下のように呼ばれるようです(出典:英語版Wikipedia)。「ハンガリアン」と「オリエンタル」という呼称に是非ご注目下さい。後で考察します。

  • Tonic mode – Double harmonic major
  • 2nd mode – Lydian ♯2 ♯6
  • 3rd mode – Ultraphrygian
  • 4th mode – Hungarian minor
  • 5th mode – Oriental
  • 6th mode – Ionian augmented ♯2
  • 7th mode – Locrian bb3 bb7

こんなわけのわからないスケールの話をして何の役に立つのだ、と思う方もいるかもしれませんが、ビル・エヴァンスの”Nardis”(1958)(マイルスの曲かもしれないけど 笑)のメロディは「Eダブル・ハーモニック・メジャー」と考えるとストンと落ちます(そういえばビル・エヴァンスが大学で学んだドビュッシーやラヴェルにもこのスケールを使ったと思われる曲があります)。

このスケールから普通に3度積みで抽出できるトライアドとセブンス・コードは下図のようになりました。何かわけのわからないものが発生しています。これは機能分析が難しそうです。というかモーダルな使い方をするものなのでしょう。西洋風の機能和声とは少し相容れないものがありそうです。ブルースみたいだ…

Triads:C, Db, Em, Fm, G(b5), Ab(+5), Bsus2(b5)
7th chords:CΔ7, DbΔ7, Em6, FmΔ7, G7(b5), AbΔ7#5, Bsus2(b5)6(or Db/B)

このスケール、7音でできていますが、下の図のように円周を均等に12分割して該当する音を線で結んでいった時、「この図形の重心が円の中心に来る唯一のスケール」なのだそうです(7音スケールとしては)。何か…怖いですね…わけがわからない…

Double harmonic major and the center of mass

アメリカの人気YouTuber、リック・ビアート氏もこのスケールについて解説していました。彼によると、このスケールには「48個のトライアドとセブンス・コード」が含まれるとのことで、下の動画(4:45〜)で実際にピアノで弾いてくれています。

下に書き出してみましたが、実際は45個でした。また、彼がこれらのトライアドやセブンス・コードをどういうルールで作っているのかがよくわかりません(普通に3度で積んでいない)。彼はジョージ・ラッセルにリディアン・クロマティック・コンセプトを学んだ方で、かなりの理論通。何か特殊なルールなのかもしれません。何考えているんだろう…

Triads:C phrygian, C, Csus4, C+, Dbmin, Db, Db lydian, Db It+6, Db b5, E phrygian, Emin, E, Fsus2, Fmin, F lydian, F diminished, G locrian, G b5, G sus4 b5, Ab+, B locrian, B sus4 b5
7th chordsC phryg+7, Cmaj7, Cmaj7(sus4), C+maj7, Dbmin+7, Dbmaj7, Db lyd+7, Emin6, E6, Db diminished +7/E, Fmaj7(sus2), Fmin+7,F lyd+7, F+minMaj7, Db lyd/G, Db Fr+6/G, Dbmaj7b5/G, Ab+min7, Ab+maj7, Db diminished/Ab, Fm(add9)/Ab, Db Ger+6 /B, F diminished maj7/B

なおIt+6, Fr+6, Ger+6という見慣れない表記は、ぞれぞれイタリアの増六、フランスの増六、ドイツの増六という和音を現しているそうです。クラシックの世界ではV7の前に発生するプレ・ドミナントという扱いらしいですが、この表記を理解するためには少し勉強する必要がありそうです(お詳しい方、是非教えて下さい)。

もしハンガリーの民族音楽に、このスケールの第4モードを使ったものが存在するとしたら、合成スケール(synthetic scale)というより由緒正しいオーセンティックなものではないですか。しかもダイアトニックな解釈を許しそうな7音スケール。でも出てくる和音がクレイジーでどうも機能もはっきりしない。だからこそ新しい表現への扉を開いてくれそうな、不思議なスケールですね。

モーダルに弾く時のエキゾティックな感じもいいですが、コードがとにかく面白い。暗くて神秘的。何かやばいものじゃないのかと思ってしまいます。

さらにこのスケールは、Mayamalavagowla(マーヤーマーラヴァガウラ)という南インドのクラシック音楽(カルナータカ音楽)で15世紀に存在していたモードとも一致。72種類あるスケールのうちの最初のものだそうです。下は、C#ルートかな…

やはりヨーロッパのものではない感じがします。ハンガリーにしてもヨーロッパの中のアジアという感じだし、ジプシー・メジャーという呼称やインド音楽との繋がりを考えると、インドからヨーロッパに移動していったロマと関係がありそうな気もします。私がいま大学生だったらこのあたりを徹底的に調べて論文とか書きたいなぁ…。

ロマは、ジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である(…)
ロマの祖であるロマニ系の人々は複数の経路で度々インド方面からヨーロッパへ移動してきたと考えられる。(…)
歴史的経緯をたどると、ロマは西暦1000年頃に、インドのラージャスターン地方から放浪の旅に出て、北部アフリカ、ヨーロッパなどへとたどり着いたとされる。旅に出た理由は定かではないが、西方に理想郷を求めた、などの説がある。彼らがヨーロッパにおいて史料上の存在として確認できるようになるのは15世紀に入ってからで(…)
最新の遺伝子研究ではインド先住民のドラヴィダ人との類似性が示唆されてきている(…)
かつてはヒンドゥー教だったと考えられている(…)
11世紀にセルジュクトルコが勢いを伸ばすと小アジアのロマがバルカン半島に移り住み、ビザンチン帝国の支配下に入って(…)1416年にはハンガリーに到達(…)

Wikipedia – ロマ

これらを読んでいると、 ダブル・ハーモニック・メジャー・スケールの起源はやはりインドで、それがロマたちによってヨーロッパやアラブ世界(当時のスペインはイスラム文化圏)にもたらされたものであるように思えてきます(もしそうだとすると、ハーモニック・マイナーとの類似は単なる偶然で、実は全く何の関係もないものであるような気も…)。

西欧キリスト教文化の下で育ってきた機能和声でうまく説明できない部分があるのはこういう理由かな。面白いです。これは、ブルースとジャズの関係にも似ていませんか。

こういうジャズや音楽の歴史に興味がある方には下の本をおすすめします。滅茶おもしろいです!

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