ラーゲ・ルンドと「手付かずの荒野」

最近「ラーゲ・ルンドの歩みを振り返ろう運動」をやっているのですが、現時点での最新リーダーアルバム”Idlewild”(2015)がヘビロテになっています。初めて聴いた時は、忙しかったのか、体調が悪かったのか、脳の底まで浸透するような聴き方ができていなかったんだと思います。こりゃぁ…こりゃすごいよ!

ギター云々の前にまずアンサンブルとしてすごいという感想を持ちました。すごく立体的なんですよね(ミックスがいいせいもあると思う)。ベン・ストリートのベースも、ビル・スチュワートのドラムも、どんどん前に出てきてラーゲと一緒にダイナミックに世界を生み出していく感じ。この雰囲気はメセニーの”Question and Answer”に似ているかも。

ビル・スチュワートのドラムが特にこのアルバムではすごい。手数が多いので、たぶんこれ嫌がる人もいるかもしれません。私は好きです。ビル・スチュワートは好みが分かれるドラマーだと思いますが、ジョンスコと共演している頃から私は好き。とはいえかなり特殊なドラマーのような気がします。

収録曲も面白い。”So In Love”みたいな渋い曲が入ってたりします(ただし変態イントロがついていて面白い)。いちばん好きなのはアルバムタイトルにもなっている”Idlewild”というラーゲのオリジナル。この曲最高。ラーゲの和声感覚、色彩感覚を堪能できる名曲です。彼はインタビューでメシアンをよく聴くと言っていたこともあり、色彩、カラーパレットという観念を強く持っているんだろうと思います。

ところで”Idlewild”という言葉。これ知らなかったので、調べてみたところ、スコットランドの同名のバンド、NYのジョン・F・ケネディ国際空港の旧称、「赤毛のアン」に出てくる静かな会合所の名前、などがヒットしました。単語の意味自体は、恐らく”Idle”(使われていない)+”Wild”(荒野)=「使われていない荒野、手付かずの荒野」という意味でしょうか。

まだ人の手が入っていない荒野… ラーゲが何を考えて”Idlewild”という曲名にしたのかわかりませんが、私の脳内ではこの「手付かずの荒野」というイメージがラーゲの音楽世界と結びつきました。未開拓の和声領域に踏み入ろうとしている感じの人。同時に、それを実現する場はラーゲにとってアメリカだったんでしょう。JFK空港という場所は、ラーゲにとって少し象徴的な場所でもあるんじゃないか。

ラーゲって演奏中に、目を開いたまま斜め上の虚空を見ているじゃないですか。ああいう時に彼が見ているもの、それはきっと”Idlewild”だったりするのではないか、と妄想したりしました。

昔々、アメリカというのは壮大な荒野だった。そこに夢を求めて、イギリスやヨーロッパから多くの移民がやってきた。現代アメリカは移民にはほとんど寛容でない社会になってしまい、資本主義・自由主義経済の悪い面が国中に蔓延してしまって、多くの人が息苦しい思いをしている。でも、そこにはまだ未開拓の表現が残っているのではないか。そんなことを思わされもする、不思議なアルバム。これは、必聴ですよ。

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Idlewild
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